前回の記事は全く「医学」と関係なかったので、今回は医学ネタに戻ることにする。ちょっと前にあるジャーナリストからメールをもらった。彼(彼女だったか)は「死後感染」問題を追っており、医療関係者の意見を聞きたいというのだ。そのジャーナリストによれば、葬儀関係者の間で、死後処置がずさんな遺体を病院から押しつけられて危険な目にあっているという不安の声が挙がっているのだという。被害も一部で出ているらしいと言うことだった。
大災害や戦争状況などで多数の死体がそこらに野積みされていて、それを感染源に伝染病が蔓延するようなことならあり得るだろうが、病院で亡くなった人の身体が何か悪さをするというような事は、少なくとも筆者は聞いたこともなければ、考えたこともない話だった。
したがって正直にその旨をのべ、自分なりの考えも申し上げた。感染源、と言うことにしぼれば、死体は咳もしなければタンも出さず、ましてや動き回りもしないので細菌や汚染物をまき散らす心配もない。一番危険なのは生きて動いている連中だろう。病院と言うところは、感染の危険という理由からではないが、死体の存在を嫌がるところで、長くても死後数時間しかその施設内には止まらない。しかも普通は生きている人間から出来る限り遠ざけられるような配慮をするものだ。葬儀関係者や遺族などに無用な感染や汚染が起きないような努力(例えば米国で使われるような遺体袋を一般化するとか)はなされるべきだろうが、普通は病院での死後処置でまず充分ではないかと思われる。おおむねそのような内容の返事を書いた。
当のジャーナリストからは丁寧な礼と、それでも「一部ではかなりヤバイ話もあると聞く」という内容の返事を頂いた。慎重に裏付けをとっていって、この問題を掘り下げたいとも。
このメールのやりとりは誤って削除してしまったので詳細はいまひとつ覚えていないのだが、あの「死後感染」問題の出所は一体何だったのだろうか、と今になって思う。それは葬儀関係者の間の「都市伝説」そのものではなかったろうかと。#
#筆者は「死後感染などない」と言っているわけではない。ある種の感染性疾患などは十分に注意する必要があるのは言うまでもないことだ。しかしそれはかなり特殊な場合だ。一度クロイツフェルド・ヤコブ症の疑いのあった人の病理解剖を依頼したとき、病理から感染危険性を理由に断られたことがある。これだって、普通の場合まず遺族や葬儀関係者に遺体から感染する危険があるとは思われない。
この病院に出入りしている葬儀業者を見ていても、あの業界は大変だとしみじみ思う。我々の仕事以上に時間をとわず、しかも常に礼を失わず、イニシアチブを最大限に発揮して経過を取り仕切って行かねばならない。激務の中では健康を害することも多いだろうし、病院の死後処置がいい加減で、自分たちが汚染されるような被害が及ぶのでは、という懸念が生まれてきても当然だろう。「死体損壊」なんぞという罪が刑法にしるされている一方で、遺体の取り扱いに関しての法律は「死体解剖保存法」しかなく、医学的な目的か検屍のためでないと遺体へ手を加えることが原則的に禁止されていることも、葬儀関係者にとってはまったくのブラックボックスを扱わされているような不安の原因となりうるのではないか。
そもそも葬儀関係者の間で「死後感染」伝説と言う物があるのかないのか、そいつがはっきりしないのでこれ以上具体的なことには触れようがないが、似たような伝説はないかと調べていたら、AFUのFAQにこういうものがあるのに気づいた。次回はそれについて述べたい。ちなみに日本語サイトで「死後感染」を検索したら一件だけひっかかった。医療介護用品の販売会社で、「死後感染」対策商品もラインナップにあるようだ。しかし、それについての記載は控えめというか、ミステリアスというか、やはり関連業界では何か引っかかるものがあるらしい事はうかがえる。
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(2000/01/17)
この事件は医療現場で起こったミステリーとして様々な興味を呼び、医学症例としては珍しく患者の本名が冠せられており、学問的考察以前の事実そのもの衝撃レベルに止まっていることが感じられるほどだ。医療業界におけるロズウェル事件とでも言えるだろう。一般には"Toxic Lady"(これ、そのまま訳すと『毒婦』になってしまってちょっと具合悪い。高橋お伝ではないのだ)として、マスコミを騒がせたらしい。ウェブ上では、都市伝説ニュースグループAFUのサイトと、超常現象関係の出版社であるParascope社のサイトに事件の内容が詳述してある。二つの記述を読み比べると細部では被害人数などに差が見られるが、大枠はほぼ一致しており、医学論文でもMEDLINEに2件の登録があり、まったくのでっち上げである可能性はない。
おもにParascopeの記述に即してまとめると事件の概要はこうだ。
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94年2月19日の夜8時14分、カリフォルニア州リバーサイド郡総合病院の救急救命センターに31才の女性、グロリア・ラミレスが搬入されてきた。彼女は2児の母親であるが、6週間前に進行した子宮頚部癌の診断を受けていた。この日彼女は自宅で心肺機能低下状態に陥り、家族が救急要請をしたが、病院到着までに高度の頻脈と血圧低下状態が15分以上続いていた。
到着後、救急室スタッフによって人工呼吸と薬物投与が行われたが、やがて心停止を来したため、除細動器を使用しようと患者の胸をはだけたとき、スタッフの一人がその胸一面に油っぽい被膜が浮いているのに気づいた。アンモニアのような匂いを感じた者もいた。
その時動脈血採取をした看護婦スーザン・ケーンは採血シリンジから強い奇妙な匂いを感じた。実習医学生ジュリー・ゴルチェンスキーはケーン看護婦からそのシリンジを渡され、同じく奇妙な匂いと、血中に「白い結晶様のもの」と「マニラ麻色の物体」が浮かんでいるのに気づいている。その直後、ケーン看護婦が倒れる。意識のある間、彼女は顔面の焼け付く痛みを訴えていたが、やがて意識を失った。ジュリーも看護婦を助けおこしに行こうとする間もなく、すぐに昏倒している。
マーク・トーマス医師が次に気分が悪くなったが、なんとか持ちこたえた。しかし、他のスタッフは次々に意識を失い始めた。強い症状を示したのは8人とも11人とも言われる(Prascopeの記載のままだと37人のスタッフのうち32人までが何らかの影響を受けたという)。医学生ジュリーと看護婦1名は長期入院を必要とした。
救急部長フンベルト・オチョア医師は他の患者と症状を呈したスタッフをすべて救急センターから移動させるように命じ、残りの3人のスタッフとグロリア・ラミレスの救命処置を引き継いだ。少なくとも彼はまったく異常を覚えていない。しかし8時50分、グロリアは死亡。彼女の遺体は密閉袋に移され、リバーサイド郡の危険物処理班と検屍チームに引き渡された。
グロリア・ラミレスの死後2時間で到着した危険物処理班は、まず救急センター内や病院周辺の空気を採取し、毒物を検索したが何も見つけられなかった。司法解剖も同様だった。リバーサイド郡検屍局主任検死官スコッティ・ヒルひきいる法医学チームは気密服を着て検査に望み、グロリアの血液や臓器からサンプルを採取した。しかし結果が報告されたのは2ヶ月もたった後だった。
グロリアの死因は公式的には「子宮頚部癌の腎転移による腎不全、その結果としての不整脈」とされた。救急室で多くの人間を巻き込んだ出来事の原因、おそらくグロリア自身の死にも深く関わっていたと思われる何らかの毒物は結局発見できなかった。
救急室スタッフがかいだ奇妙な匂いはグロリアの身体から出たのではなく、病院のなんらかの過誤によるものではないかという意見も出たが、直後の危険物処理班の調査がそれを否定している。念のためいくつかの調査機関に依頼して医療廃棄物などが調べられたがやはり何も分からない。
グロリアの家族は、病院側の経過報告に矛盾があると主張した。救急室のスタッフには何の匂いも感じず、具合が悪くもならなかった人間が少なからずいたし、何よりグロリアに自宅で付き添って看病していた家族は何の被害も受けていない。家族は何らかの過失を主張し、病院を訴えた。また郡当局に対しても訴訟を起こした。検屍局はグロリアの遺体を長期間引き渡すことを拒み、やっと遺体が返されたときには保存のまずさからかなりの損傷があったからだ。
リバーサイド郡検屍局の対応のまずさを指摘したのはほかにもいた。多くの専門家は、宇宙服まがいの格好で解剖したことをからかった。医学史上、遺体からの毒性物質で被害を受けた人間などいないと。もっとも、少なくとも救急室ではそれに類したことが起こったのだが。また検死官のヒルは改選時期が近かったため(向こうでは大概の公的ポストは選挙で決まるのだ)、わざわざグロリアの死を派手に、かつ長期にわたって扱うように操作したのでは、と言う疑問を示す人もいた。
また、この事件で症状を示した人間がすべて女性だったことから、「集団ヒステリー」として片付けようとする動きもあり、それが郡行政当局から出されたものだったため、被害者の一部は郡当局に慰謝料請求訴訟を起こす騒ぎになった。真相は未だ闇の中にある。
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結局この事件は原因が不明のままとなり、多くの人にグロリア・ラミレス事件<"Toxic Lady" incident>として様々に口の端に上り、好事家向けのトンデモ学説までもが登場したようだ。訴訟の方はまだ続いているらしい。
患者が何らかの毒物を飲用、もしくは身体に付着させていたというもっとも考えやすい原因は直後に否定されている。グロリアは癌の診断を受けた後にも何の投薬も受けていなかったため、身体の中で何らかの化学反応が起こった、と言うたぐいの説明も難しい。しかしこれに関しては、事件の3年後ではあるが、この事件関連で唯一正統的医学論文となった(もう一つあるがそれはこの論文へのコメント)Lawrence Livermore National LaboratoryのGrantらによる考察がある。
Grantらは、一般的な溶媒であるジメチル・スルフォキシドが体内で酸化され、毒性の高いジメチル硫酸に変化したのではないかと主張する。被害者の症状を一番よく説明するという。また、この物質は揮発性であり、事件後まず検出はされない。またグロリア・ラミレスの体内からは、高濃度の硫酸イオンが検出されており、ジメチル硫酸による中毒を間接的に証明している。また、ジメチル・スルフォキシドは痛みに対する民間療法として使われることがあるとも。疼痛部にすり込んでおくと関節痛や筋肉痛が緩和されるそうだ。スタッフがグロリアの胸に付着しているのを見た「油っぽい被膜」はこれであった可能性がある。
グロリアの家族はこの物質を本人が使っていたことはないと証言しているそうだが(家族の観察が当てにならないことなどは日常茶飯事)、この説明はかなり説得力がある。先のParascopeの記事では、ジメチル硫酸の毒性はせいぜい目にしみるぐらいのことだと否定的に書かれていたが、筆者が調べた限りではかなり強い神経毒のようだ。また、体内でなぜ酸化が起こったのかと言う点では、心肺機能障害から強いアシドーシスを起こしていた可能性や除細動器による通電の影響を考えると、もっとも合理的な説明に近いだろう。
確定的なことは何も言えず、後年になって案外間抜けな真相が明らかになったりするのかもしれないが、死に瀕した女性が謎の毒物を排出し、病院スタッフが次々に倒れていく、というのはかなりのインパクトのあるイメージだ。これがまわりまわって、遺体による死後汚染の噂につながった可能性は否定できないだろう。
病院の救急室と言うところは、危機的事態にある人に対する迅速な機能的対応、ということにすべての基準が置かれているから、逆にその場所自体が危機的状況になるような事*に対しては極めて無力だ。この弱点は例えば、たちの悪い酔っぱらいが救急受診してきた程度のことでたちどころに露呈される。これが目に見えない毒性物質を帯びた患者の搬入、と言うような事態になればその混乱はすさまじいものとなるだろう。グロリア・ラミレス事件はその危惧があまりにも劇的に実現されたため#、現実の事件でありながら初めから伝説化している希有な例であるといえるだろう。
(2000/01/19)
*もし病院専門の窃盗などを生業としたいと考えておられる方がいれば、筆者としてはまず救急部をねらうことを強くお勧めしたい。外部からの積極的侵入からの防御などはまったく考えていないつくりなので、医療機械などいくらでも持ち去れる。まあそれをさばくルートなどを確保しておかないといけないし、それなりの知識もいるので、まず病院職員をある程度の期間地道にやって業界カンをつちかっておくのが確実だろう。
#ちょっと前TV番組「ER」で、この事件をヒントにしたとおもわれる救急センター内の中毒事件をやっていた。ここでは謎の原因ではなく、ちゃんと中毒物質による汚染患者が搬入された事になっていたが、あれでは搬入後に中毒が起こる理由がおかしいぞ。先に救急隊員がやられなかった理由がわからん。最近「ER」はマンネリ化のためか、ちょっと考証がおかしいところが見られるようになったと思う。
・人喰いバクテリアの恐怖
フランケンチキン告発などと同趣意の「脅し転送メール」をまた紹介したい。この手は健康障害を告発するものが多く、ネタ切れ対策にはうってつけだ。今回は日本でも一時騒がれた「人喰いバクテリア」ことβ溶血性連鎖球菌(ふつう溶連菌と略される)への恐怖を煽るものだ。農業保護主義のバイアスもあるのかなどと考えさせて面白い。
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警告!!
コスタリカから輸入されるバナナの中には「壊死性筋膜炎」、いわゆる「人喰いバクテリア感染症」の原因となる細菌に汚染されているものがある。コスタリカでは最近、これが猿に流行し多数が死んでいる。この菌はこの地方の果物、特にバナナの表面に付着し、生育することが明らかになっている。この事実が知られるまで、専門家は壊死性筋膜炎の感染経路を突き止められなかった。
今後3週間ほどの間は、この菌に汚染されている可能性の高いコスタリカ産バナナは食べないようにすることが望ましい。ここ数日のうちにもしバナナを食べ、発熱とともに皮膚の感染症が見られたら、すぐに医師の診察を受けてほしい。
壊死性筋膜炎の際の皮膚感染症はきわめて痛みが強く、一時間に2-3cmに及ぶ拡大進行を示すのが特徴だ。切除治療が一般的で、死亡もまれでない。もし病院から一時間以上はなれた場所に住んでいる人がこの症状を示したときは、進行を遅らせるために感染部位を火で焼くことをお勧めする。
FDA(食品医薬物局)はパニックを恐れて警告を出すのに消極的だ。彼らは非公式には、1万5千人を上回る米国人がこの疾患にかかる可能性があるが、あくまでそれは判明する範囲内でのことだと認めている。このメールを出来るかぎりの人々に転送し、1万5千人もの人々の被害を食い止めよう。
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これをここで紹介した人は、「これ読んで自分を火であぶってダーウイン大賞もらう人がいないか、てのが楽しみですなあ」などと面白がってる。案外自分で作ってたりして。
ともあれ溶連菌が植物を媒介にして感染する、と言う話は聞いたことがなく、ましてやバナナの表面についていたからと言ってそこで増殖できるはずもなく(栄養になるものがないじゃないか)、またバナナの皮のほうを好んで食べる人がいるとも思われず、感染源として不安を煽るにはちと人々の連想を刺激する要因を欠くようだ。なにかもっと動物系のもの、それでかつ細菌培養培地を連想するようなものならいいかもしれない。「日本産プッチンプリン」とか。そんなもの輸出されてないか。
A群β溶血性連鎖球菌感染症について、とくにごくまれとはいえ致死性となる重症型の壊死性筋膜炎に関しては"The National Necrotizing Fasciitis Foundation"が開設しているここが一般向けにうまく解説してくれているが、日本語ページでは専門家向けが多いようだ。ここはその中では判りやすいほう。残念ながら表紙ページからではまずここにたどり着けない。
溶連菌感染症は言うならば「必要もないのにカゼに抗生剤を投与して医療費を稼ぐ」と非難される側の医師にとってはこの上もない言い訳を提供してくれる状態で、小児期にこの菌による感染症を単なるカゼの上気道炎として漫然と治療されていると、腎炎やらリウマチ熱やらの厄介な状態に追い込まれてしまうこともある。充分な抗生剤治療が必要になるのだが、初期症状がふつうのカゼとくらべて一目瞭然と言うわけではない(まあちゃんと診てれば判りますが)ので難しい。
ましてや成人に発症する壊死性筋膜炎のばあい(これは特別に強い毒素を出す細菌株と発症しやすい人のまれな出会いという運の悪い状況によるものなのだが)、初期症状はありふれた発熱と筋肉痛で、あれよあれよと悪化ということならまず念のため抗生剤投与というのも致し方ないという話になる。もっとも本物なら普通に使う抗生剤の量ではとても追いつかないぐらい投与する必要があるのだが。
一時日本のマスコミでやられた無用な不安の煽られ方を見ていると、あれは製薬資本と医師会が共謀して無差別抗生剤使用を正当化しようとしたものだという疑いが捨てきれない。いずれにせよ専門家にも行き当たりばったりで対応せざるを得ない病気であるのは事実だが、これで不幸な死を迎える不安に身を焦がすより、ごくふつうに健康的生活を送るほうが生産的であるのは言うまでもない。
上にあげたようなデマメールが手元に届いたら、ぜひそれを契機に検索などを駆使して関連知識をえていただければ幸いだ。実用うんぬんではなく、知識との対比の中でこそ物語としての楽しみかたがあると思うからだ。
(2000/01/22追加)
比叡山要塞、といっても荒巻義雄の小説の話ではない(あれは琵琶湖要塞だったか)。15年ほど前、私がみていたアル中の患者から聞いた話だ。彼はアルコール症でも末期状態で、脳症が激しく、強い健忘症状がある一方で妄想的虚言を次から次へと並べる人だった。旧海軍の将校だったといい、戦後は京阪神の財界お歴々の懐刀として活動し、フィクサーとして知られる某氏が経営者であった放送局の重役として活躍していた時期もあるのだと(特にこの話は関西芸能人との交友を吹聴する内容のまくらとして何度も聞かされた)。天涯孤独の身の上で、その手の話を裏付ける証言もないのだが、酒で尾羽うち枯らした風体の奥には、そう言われれば修羅場をくぐってきたらしい凄みとそれなりの知性が感じられないこともない。ただ、それがトイレの位置も分からぬようになってそこら辺で放尿してしまう言い訳などとして、その手の話が始まるのだ。「いやあね、戦闘機に乗っていたときには小便に困ってね。水筒でうけて窓から捨てたもんだ。ある時なんかね…」てなぐあい。履歴話も「おいおいこの前の話と違うじゃないか」と言うのはしょっちゅう。それでもけっこうオモロイので、ハイハイと有り難く拝聴していた。
その人の言うには、戦局も押し詰まっていた昭和20年はじめ、大阪の航空隊にいた彼ら青年将校は急に比叡山に集められたとのこと。そこには有人ロケット戦闘機の基地が建設中だったという。京阪神を襲おうとする米軍の爆撃機に対し、比叡山の斜面からカタパルトで打ちだしたロケット戦闘機で、爆撃機の死角である真上から迎撃する、というまことにもってSFまがいの作戦がそこでは進行中だったと。迎撃が終了した戦闘機は、グライダーのように滑空して琵琶湖に着水し、回収されるのを待つ事になってはいたが、基本的には特攻機で、そのままB−29に突っ込むつもりだったとか。
その当時こちらはその話聞いて、また虚言が始まったわい、と思って真面目に聞いていなかったのだけれど、そのおっさんが肝硬変で亡くなってからずいぶんたったある日、新聞記事をみて驚いた。そこには天台宗の座主である、山田恵諦と言う人が自伝を書いていたのだけれど、そこに比叡山の終戦当時の出来事として、海軍のロケット基地の事が書かれているではないか。比叡山は山坊のいくつかを宿舎や作戦本部として海軍に貸し出していたと。そして僧侶達もロケット発射台や取り付け道路の建設にかり出されていたのだそうだ。結局基地は完成せぬまま終戦となった。終戦時、基地の資料や書類などはすべて処分され、関係者にも箝口令がひかれたという。
してみるとあのアル中のおっさんは、本当の事を言っていたのだ。当時のカルテに、「アルコール痴呆にともなう虚言としては体系的に過ぎる。来歴も含めた妄想の形成が、反応性に生じてきたと思われる。」なんて書いてたのに。これからは、もっと病人を信用する事にしよう。
ここだけを読むと、患者がちょっと荒唐無稽なことをいうと医者は妄想だとか、虚言だとか言って取り合わないかのごとき印象をもたれてしまうが、そういうわけは決してなく、このオッサンの場合、たいがいのことはやったことがあると主張する、それ自体を疑っているわけ。まだ建設中のロケット基地にパイロットが集められてもする事はないはずで、それなりの訓練とかしていて、準備が整ったら基地に召集されるのが普通のはずだ。たしかに「比叡山の斜面にカタパルトねぇー」と疑ったのは事実だけれど。
しかし、純軍事的効率性から見ると海軍は何を考えていたのだろう。比叡山あたりに基地作って、しかもロケット機では守れる範囲があまりに狭い。一体何処から何処をめがけて敵がくる、と思ってたのだろうか#。もしかしたら、戦局も絶望的でどうせ何をしても無駄なことだから、ちょっとしたホラ話作戦でもでっち上げて関係者を集め、出来るだけ無駄死にから救おうとでも考えた人間がいるのかもしれない。昔の軍部でも関西系ならあり得る話だと思う。比叡山を選んだのはきっと「絵になるか否か」と言う一点だと思う。これが生駒山ではさまにならない。京都に行かれることがあったら、比叡山を仰ぎ見て、山腹から轟音とともに火焔を引いて虚空に上昇していくロケット戦闘機を幻視してほしい。それが京の街にいやに似合う美しい光景になると感じるのは、筆者だけではないはずだ。(2000/01/28)
#こう書いていたのだが、軍事趣味者の助言によれば、当時海軍はソ連の参戦を危惧しており、日本海側から京阪神に侵攻する勢力をくい止めるために何とか制空権を回復しようとしていたらしい。若い軍人を生き延びさせるためにトンデモ作戦を考えるほど軍隊は甘いところではないようだ。いまでも若狭湾から湖西路にかけては航空自衛隊のとっくに時代遅れになったホーク地対空ミサイルの基地がある。
以前紹介した「女子高生オナニー伝説」の米国版とおぼしきネタがここに掲載されていた。バッドテイスト度2倍、女性蔑視度4倍と言う感じで、食事時には聞きたくない内容になっている。
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メイン州キッテリーに住む22才の女性スーザン・デルッチは、ある日の早朝5時頃、激しい痛みを伴う尿意の様な感覚で目覚めた。それは下痢の感じに似ていたが場所がどうも違う。トイレに駆け込み便器に座ると、なんと腟から聞いたこと事もないような恐ろしげな異音と共に何かがほとばしり出始めた。激しい痛みの中、彼女はトイレの手すりを握りしめ、腟からの排出物を絞り出し続けた。
彼女が悲鳴を上げたので、隣人は救急車を呼んだ。救急隊が到着したとき、スーザンはバスルームの床にローブを羽織っただけの姿で意識不明で倒れていた。隊員がストレッチャーに移そうと絡み合っていた彼女の足を持ったとき、彼女の下腹部があらわになった。そこには茶緑色の粘液のなかに、指先ほどの小さな生き物が無数にうごめいていて、一部は床にまで広がってしめった泡音をたてていた。
救急隊員はぼう然と床の上の粘液に包まれた生き物の群を眺めていた。それは小さな「泥エビ」(泥の中に住む原始的な小エビらしい。学名はUpogebia Affinis。和名は不明なので直訳)で、絡み合って床の上をうごめいていた。隊員は吐き気を来して、そばの便器にしゃがみ込んだ。そこで彼はさらに恐ろしい光景を見る羽目になった。便器の中には先ほどの泥エビがさらに大量にあふれて動き回っていたのだ。結局スーザン・デルッチは頭部外傷とそれによるショック状態で死亡した。トイレの中で自分が排出したものを見て、驚愕のあまり昏倒し、頭部を床に打ち付けたものと思われた。
警察の検証で、事故の2晩前スーザンが生きたロブスターを魚市場で買った事が分かった。それは台所のゴミ箱の中にあり、頭部は少し焦げていた。そして、その尻尾からスーザン自身のものとDNA鑑定で証明された陰毛が発見された。これらのことから、スーザンはそのロブスターを使って自慰行為をしたと考えられた。尻尾を膣に挿入し、ロブスターの頭部をライターであぶって動き回らせることで快感を得ようとしたらしいと。入れたままになっていたハードコアレスビアンビデオも状況証拠とされた。
ロブスターの消化管には大量の泥エビの卵が入っていた。ロブスターは火であぶられたとき、スーザンの体内に苦し紛れにその卵を排出したのだ。泥エビは孵化までに2日しか要しない。またスーザンはこのとき生理期間中であり、体内は泥エビの孵化に最適の状態となっていたと考えられた。泥エビはペットとして飼われる「シーモンキー」とおなじ種類のものだが、それよりかなり大きい。それに孵化の時には10分ごとに大きさは倍になるのだ。泥エビを排出したときのスーザンの苦痛は極めて激しいものだったろう。
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いやはや自分で書いていても気持ち悪くなる話で恐縮だ。実際は泥エビ(Mud Shrimp)は10分ごとに倍になるような生育をするはずがないし(エネルギー保存の法則はどうなる)、そもそもロブスターの尻尾なんぞがあんな微妙で傷つきやすい所に収まるはずもない。以前書いた「オナニー伝説」とおなじで、男性の女性に対する性幻想を極めてグロテスクに(悪意を込めてかつ稚拙に)表現したものと言い切れる。大体スーザンの体験はいったい誰が伝えたのだ。イタコにでも聞かないといけない。
こういう極端なものがあると言うことは、もっとマイルドなものもあると考えられるので、案外日本版だと思っている「電球、真空管もの」の出所は海外なのかもしれない。(2000/01/31)
ちょっとこの題名は苦しいなと思いつつ、97年末米国の警察・薬物取り締まり機関の中に流れたというデマ情報を紹介したい。最後は一般対象にインターネットにも現れたが、その前には実際に警察関連組織内で流通した物であることは間違いないらしい。
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麻薬取締局サクラメント地方支局は以下の警告を関係者に送付した。この警告は法執行にかかわる機関全体で共有されるべき物である。
「現在、この国の違法薬物密売者たちが、取締捜査官に対してリシンと呼ばれる毒物を使って報復しようとしているという情報がある。リシンは唐胡麻と言う植物の実から得られる物質で、覚醒剤の粉末と極めてよく似ている。これは極めて毒性が高く、皮膚についただけで致命的となる。量にもよるがほぼ数日で死にいたり、解剖によっても原因は突き止められない。
法医学専門家は、もしこの物質をふつうの覚醒剤検出の手順で調べると、多量の泡を生じ、マスタードガスと同様な毒ガスが発生すると予想している。もちろんそれを吸い込むと致死的となる。リシンは青酸化合物の6000倍の毒性を持っており、解毒剤はない。リシンに接触被曝したときの症状は以下の通りだ。発熱、咳、衰弱、そして今度は低体温となり、血圧低下をきたし、心不全となって死に至る。現状を考えると、疑わしい薬物を検査する際は決して皮膚に触れないようにし、細心の注意を持って検査に当たられたい。
我々はこの警告をカリフォルニアの関係機関に送り、すべての機関が地元病院と協議するよう勧めた。リシンが毒物検査によって検出できるのかどうか今のところまだ判らない。法執行関係者に止まらず、すべての人にとってもこの物質による被害が起る可能性がある。」
解説:手短に言って、実際にリシンを使って薬物密売者による取締官への報復テロがなされたような事件はないし、当の麻薬取締局サクラメント地方支局がこんな注意を出した事もないそうだ。ではこれはどこから来たのだろう。
98年1月、薬物規制局と連邦アルコール、タバコ、銃器取締局は連名で米国内の法執行機関に通達を発した。これは毒物を使ったテロが行われる可能性についての一般的な警告で、具体的な内容についての物ではなかった。しかしこの警告は色々な機関で、少々過大に受け止められた。後で後悔するより、まず警戒を優先すると言うわけだ。
薬物規制局によれば、テキサス州エルパソの支局が全国に上の警告を送ったのだという。送られた方は地方警察にさらに転送した。サクラメントの麻薬取締局によれば事情は似ているが違う。彼らは元の警告は国境警備隊テキサス支部が出したと信じている。テキサス国境警備隊の方ではカンサスの法執行機関から来たのを転送したのだという、カンサス方面ではそれがどこから来たのか誰も知らなかった。
この警告文の作者は見つかりそうもないが、リシンと密売人がなぜ結びつけられたかは推理できそうだ。それは93年、カナダ国境での事件にさかのぼる。米国籍の電気技師、トーマス・ラビィの車から未登録の銃多数と、数千発の弾薬、8万ドルの現金、ネオナチの文書、そしてプラスチックの袋に入った数万人の致死量に相当するリシンが発見された事件だ。ラビィはカナダ税関に、リシンは飼っているニワトリをねらうコヨーテを殺すために所持していると主張した(この事件の真相は結局闇の中となった。ラビィは2年後、独房で首吊り自殺している)。同じ頃、ミネソタの武装グループの構成員4人が、連邦職員の車のヒーターファンやドアノブにリシンを撒いて殺害を謀ったという罪で逮捕されている。97年にはウイスコンシンの男がリシンを郵送して殺人を計画した罪で有罪となった。"US News &WorldReport"誌は97年11月にリシンについて特集記事を組むが、上の「警告文」はその直後に出現している.
警察官は危険な職業であり、密売人がその商品に何か危険なものを混ぜて誰かを害してやろうと思って、その結果警察官にとばっちりが来る可能性もある。(薬物取締局の広報官によれば、コカインの中に捜査官を傷つける目的で色々な物が混ぜられるというのはしょっちゅうだという)
リシンは警告文にあるとおり、少量でも致死的な毒物で、唐胡麻から抽出されて、実際に青酸化合物の6000倍の毒性を持つ。触れるだけでも吸い込んでも危険だ。FBIはこの物質を、プルトニウムとボツリヌス毒素の次に危険な物質にあげている。解毒剤もない。もしこれによる中毒になったら、効果的な治療法はないのだ。密売人が捜査官に罠を仕掛けるべく、何らかの物質を探すとするなら、リシンほど適当な物はない。(しかし、幸いなことに、リシンを合成するのはかなり難しいとのことだ)
リシンは78年にブルガリアの諜報員によって亡命者をロンドンで殺害するのに使われた。犠牲者は傘の先に仕込まれたリシンを足に注射されたと言う。
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以上、ここの記事をほとんどそのまま紹介してみた。リシンはその構造と機能がかなり解明されており、RNAの機能阻害を通じて細胞のアポトーシス機構に直接作用することから、抗ガン剤や抗菌剤、抗ウイルス剤としての応用が研究されている物質だ。これに関する情報をお望みの方はこことここなどを参照されたい。もちろんこれを使って騒乱状態を意図するようなことを、よいこのみんなはやってはいけない。上にはまったく触れられていないが、米国警察行政内でも大混乱(大体似たような機関がやたらにあるのが混乱の原因のように思うが)だったこのデマ騒ぎの背後には、日本のオウム真理教による地下鉄サリン事件が色濃く作用しているのは間違いない。ジャップにサリンで先を越されたから、もっとヘビィーな毒を見つけてきたぜ、と言うようなニュアンスを何となく感じる。
(2000/02/04)
いささか旧聞に属することで恐縮だが、何かのラジオ番組で「私の想い出の味」を投稿するというようなコーナーがあった。のんびりした雰囲気はたぶんNHKだったと思うが、ある時カーラジオでたまたま聴いていた筆者は、その内容に突然異質なものが混じり込んだのを感じ取った。聴取者の投稿にこういうものがあったからだ。
「スタッフの皆様、お変わりありませんか。いつも楽しみに聴いているこのコーナーですが、私にも忘れられない想い出の味があります。それは子供の頃、父が作ってくれた『地獄鍋』なんです。名前はとってもおどろおどろしいのですが、庶民の知恵とでも言うものが感じられる料理でした。
父は近所の小川でドジョウを取ってきて泥を吐かせ、それを生きたまま土鍋にいれて、弱火にかけるのです。子供心に『なんて残酷なことをするんだ』と思ったものです。『ドジョウがかわいそうだ』と父に言うと、父は優しく『魚たちは美味しい食べ物になることで本当に天国に行けるんだよ』と言ってくれたものでした。お湯が熱くなりはじめてドジョウたちが暴れだすと、父はそこにさっと冷たい豆腐をいれ、一気に火を強くします。そうするとドジョウたちは冷たい豆腐に潜り込み、そこで豆腐と一緒にじつにうまい具合に煮えるのです。父は秘伝のだしと醤油や酒を加えて、そのドジョウが潜り込んだ豆腐を絶妙の味に仕上げてくれました。『ドジョウさんごめんなさいね』と心の中でわびながら、何杯もお代わりしたものでした。
あれを作ってくれた父も亡くなってもう10何年かになります。作り方をちゃんと聞くことがなかったのが残念です。私ももう孫が何人も出来る歳になりました。頑張ってあの味を再現して、孫たちにご馳走してあげようと思う今日この頃です」
ほのぼのとした語り口と、バッドテイストな内容のミスマッチが、ギャグとしてではなくそのまま流される異様な雰囲気ではあったのだが、アナウンサーたちはごく普通の投稿としてそれに対処しようとしていた。さすがにコメントは多少ぎこちなくなるのは避けられなかったようだが。
「い、以上、T県O郡の**さん69才からでした…。『地獄鍋』ですか…。田中さん、食べたことあります?」
「い、いえ、私は…。作り方とても難しそうですね。青木さんはどうです?」
「なんか聞いたことはあるんですけれど…。実際にこう、食べておられる方の話は初めてですね…。火加減がね…。難しそうですね…。確かに。」
「…。この方も、是非再現されてお孫さんたちにご馳走できたら良いですね…。」
「……。で、では次のお葉書を…。」
嵐山光三郎氏が書いた料理の本にこの「地獄鍋」挑戦記があって、凝り性の彼は様々に条件を変えてこれを作るべく長期間実験したそうだ。その結論は「これはウソ」というもの。どういう風にやろうとドジョウが豆腐に入り込んで、そこで煮えるなどと言うようなことはないのだそうだ。たまにすーと豆腐に潜り込む奴がいても、そのまま出て来てしまうらしい。「ここが適温」と思って細かく移動するような知覚運動制御がドジョウに出来るはずがないというような専門家の意見も別のところで見た。嵐山氏や一人二人の専門家の言うことだけで否定しきれるのか、と言われるかもしれない。しかし、これだけマスコミでグルメ番組やそれとリンクした御当地紹介番組が氾濫している時代に、そんな料理見たことある人がいるだろうか。筆者はその手の情報にはつねに目を光らせているが、これを名物料理として供する店など聞いたことがない。*&
世の中には「秘伝」としか言えないものを会得している人がいるのは事実なのだが、豆腐にドジョウを閉じこめてうまく煮あげる技術は少なくとも一般には存在し得ないようだ。(本当にこの技術をおもちの方は是非連絡してほしい。追試して「料理」の方にアップしたい)
では筆者が聞いたあの投稿は何だったのだろう。願わくば、投稿者の方がこの伝説的料理の存在をいつの間にか自分の生活史に組み込んでしまっただけの、エピソード的過誤であってほしいと思う。確信犯的虚言投稿とは思いたくない。子供たちに秘伝の料理を作ってくれる優しい父親、その想い出を温めつつ、孫に囲まれる幸せなおばあちゃん、それらすべての存在もむなしくなるのではあまりに寂しいからだ。現実とも伝説ともつかぬ多元的世界に人が生きていることの証拠として、あの投稿を捉えるのがもっとも豊かな態度であろう。(2000/02/05)
#医学都市伝説とは言えないし、ほかのエピソードとも少々性質が違うこの話題を取り上げたのは、ここの記事を読んで頂いたある方からのメールが動機になっている。この方は筆者が2回もしつこく取り上げた「膣けいれん伝説」に関連して、あるラジオ番組でコメント係の医師がこの状態のカップルをみたと述べていたという情報をよせられた。とても又聞きの話とは思えなかったとも。筆者はたとえTVであろうがその著書の中であろうが、この伝説通りの現象を見たと主張する人がいれば、それは伝説を事実と誤認した上での罪のないホラであると言い切れるので、そのように返事し、その目撃談もあまりに定型的で"Too good to be true"の代表のようなものであること、その医師がやったという医学的処置も専門的に見ればちょっとおかしいことも書かせてもらった。その時、どうも自分でも似たような体験があるな、と思い出したのが上の投稿だった、というわけだ。
*筆者の父親は公務員の土木技官で、高度成長初期、日本各地でやられていたダム建設の設計監督を担当していた。現場にもよく出かけていて、いわゆる「飯場」で寝泊まりすることも多かった。ある時そこで供される伝説的料理の話をしてくれたことがある。鍋に米を入れて炊き、程々に炊きあがりかけたところで、山でつかまえてきたマムシを放り込む。鍋の蓋には直径2〜3cmの穴が空けてあり、そのうち鍋の熱さにまいったマムシがそこからふらふらと首を出してくるので、それをぐっとつかまえてうまくしごくと、骨だけが抜けて身が残るので、かき混ぜて、醤油と酒で味付けして蒸らすと美味しいマムシご飯ができあがるというのだ。筆者はかなり長いこと本当だと信じていた。
&気になったので嵐山氏の本をもう一度確認してみた(「素人包丁記」講談社文庫)。するといろいろ試したがうまくいかないのでうそだと思っていたら、ある好事家から詳しく教えてもらい、再度挑戦したとある。ただしやはりうまくいかない。これはドジョウの問題だ、という話になっていた。野生のものにくらべて、養殖では泥にもぐるノウハウをドジョウのほうが忘れているというのだ。かの玉村豊男氏のアドバイスを得てもやはりうまくいかなかったと言う。何やかやで最後はうまく行ったと言うのだが、どうも書き方があいまいだ。ほとんど煮えかけているのを人力で押し込むという方法を取ったとしか思えない。ここでは完全に伝説であるようなことを書いたが、人によれば似た状態は作れるということかも。ただ、嵐山氏の結論は「あまり、うまいものではなかった」というもの。少なくともこれがうまいものだ、というのが伝説であることは間違いない。嵐山氏はさらに、「ドジョウが自ら開きになりつつ、豆腐に入り込むときにポイと骨を外に捨ててくれれば」よいと続けている。それは何ぼなんでも無理だろう。(この項2000/02/09追加)
このコーナーの始まりのところで筆者は「アラブで子供を交通事故で死なせた日本の外交官の子供が、群衆に引きづり出されて車でひき殺された」という話をちらりと紹介している。これはバブル初期の頃、某文科系知識人の対談本の中で「本当の話」として語られていた(文化的な枠組みの違いは日本人の常識などを越えるものだ、と言うような例として)ものだが、筆者には「都市伝説」に違いないと思われたのであえて例として取り上げた(事実ではあり得ないとは言わないが、歪曲があるのは間違いないと思う)。何故そう思うかというと、あまりに既成の先入観がうまい具合に露呈されるような事実、事件がそのまま起ると言うようなことはそうあることではないと思うからだ。「目には目を」というようなアラブ価値観の即時的適用とか、統御されない群衆による人民裁判があっという間に組織される状況など、あまりに出来過ぎている。それにこれに似た話は繰り返し流通しているのだ。(この話は『それを目の前でみた外交官の妻、つまり子供の母親は精神に異常を来した。外務省は国際問題になるのを怖れてこの事実を隠している』と続く。都市伝説臭がますますつのる)
まったく同じ枠組みとも言える話が幕末の日本で起こっている。日本史でおなじみの「生麦事件」である。これは偶発的事件ではあったものの、薩摩藩が幕府に外圧をかける機会を常にうかがっていた、という政治的意図がなければ起こり得なかったろう。しかし、あの事件は当時のヨーロッパで「日本のサムライは些細な理由で欧米人を切り捨てる」という「根拠ある噂」のよりどころとなった。日本娘と恋仲になった外交官が、娘を汚された詫びにと切腹させられた、と言うような話が山ほど出来たらしい。生麦事件で一人無傷で逃げ延びた女性は、英国に戻って精神の均衡を崩し、一生を闇と共に忍び寄るサムライの幻影におびえ続けたという(こう言うのは同時に恋愛妄想の側面を持つ事が多いが、彼女の場合もそうであったらしい)。彼女の妄想は多少なりとも、かの地の社会にそれなりの恐怖譚として影響を与えたであろう事は想像に難くない。
百年前の日本人は、欧米人にとっては不気味で想像を超えた行動原理を持つ不定形の群衆であったのだが(多分今でも似たようなものだろう)、いまや日本人がAA諸国の人々をそのような目で見るようになっている。出世したと言うべきか、分をわきまえていないと言うべきか。日本もその仲間入りを果たした西欧エスノセントリズムの産物である伝説が、またも流通している例を紹介する。相変わらずネタはここで拾った。
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親愛なる友人のみなさん
マイク・ハッチンソンとその家族は、国際伝道委員会から西アフリカのギニアに派遣されていたのだが、いまや我々の祈りを必要とする事態にとらわれている。
彼は家族と共に自宅に帰ろうとしていたとき、イスラム教徒の群衆に取り囲まれた。忍耐強く待って、人々に道を空けてくれるよう頼み、車を動かし始めた。その時16才のイスラム教徒の少年が突然車の前に飛び出し、轢かれて死亡した。群衆はマイクを拘束し、パスポートを奪うと、殺人の罪で裁判にかけている。マイクには即座に絞首刑が言いわたされる見込みだ。彼の家族は他の伝道師一家によって保護されている。
どうかこのメールをあなたの教区の人々に閲覧してもらい、彼らのために祈りを捧げてくれるであろう人々に転送してほしい。そして、そうしているときにも彼らへの祈りは欠かさないでほしい。
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即座に絞首刑が言い渡されるかもしれない事態がいつどういうタイミングで本国に伝えられたのかも不明だし、のんびりメール転送などしている余裕などあるわけもなく、趣旨一貫しないことこの上ない内容なのだが、昨年中頃から出回っているというこのメールに対し、当の国際伝道委員会は次のような記事をそのサイトに掲載している。「伝道活動への無用な不安を生むデマに関して」と題したものだ。「噂の常として、いくらかの真実が含まれてはいる。マイク・ハッチンソンは不可避的な交通事故を起こし、そこで16才の少年が死亡した。しかし、群衆が関与して殺人罪で裁判にかけられているような事実はなく、もちろん絞首刑の危機に面しているようなことはない。この事故は現地関係機関が捜査して、マイクの事情聴取も終了しており、過失はないとされ『遺憾な事故』として決着している」とのことだ。
81年のノーベル文学賞受賞者であるエリアス・カネッティはその著「群衆と権力」(上下巻:法政大学出版局)の中で、人が根元的にもつ「群衆への恐怖」と「群衆の一員と化す事への憧憬」について分析している。カネッティの議論は多岐にわたり、アルコール中毒の離脱症状である振戦せん妄時の「小さな虫や小人の群」幻覚の考察から、全体主義的権力の構造分析にまで及ぶのだが、筆者にはとても解説する能力はない。ただ、合理的理性によって秩序づけられていると信じられている近代的社会は極めて脆弱なものであり、「群衆」というはなはだ日常的だと思っているような存在に容易に脅かされるものだ、という指摘とその根拠の分析は実に説得力あるものだった。
そう言う意味で、西欧的理性のバックボーンたるキリスト教の伝道師がイスラム「群衆」によってリンチの危機に瀕している、というデマは極めて定型的な構造を持っていることがわかるだろう。これを欧米の思い上がったエスノセントリズムとするのはたやすいが、より根源的な人間の本性に発していることも自覚しておくべきであろう。一番初めにあげた日本人外交官の話は、勘違いの思い上がりから発したのは多分間違いないだろうけれど。
(2000/02/07)
#初め「群衆」を「群集」と書いていたが、E.カネッティの著書名のほうに統一した。一部表現を変えた部分もある。(02/09)
以前にも別のを紹介したが、いわゆる「大学珍妙答案もの」ジャンルである。これは質問自体が珍妙なので、答えも当然そうならざるを得ない。何時のことかははっきりしないが、アイオワ大学の化学課程で出題されたレポート課題であるという。おそらく教師が出来の悪い学生どもにゲタをはかせる目的で付け加えた設問が由来となっているのだろう。出典はここの掲示板。
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課題:「地獄は発熱性か吸熱性であるかについて考察せよ」
多くの学生はとおり一遍のレポートを書いたが、ある学生はこのようなレポートを提出した。
「第1に、我々は地獄の容積が時間とともにどの様に変化しているか、と言うことの考察から始めなければならない。そのためには、魂が地獄に移動する増分と、そこから魂が離れる減少分について検討しよう。これについては、いったん地獄に入った魂はそこから離れることはない、という仮定で問題ないように思われる。
次はどれぐらいの魂が地獄に行くのか、という問題である。この世界には実に沢山の宗教が存在する。これらの宗教の多くは、自分たちの宗教を信じないものは地獄に堕ちるという意見を表明している。宗教は少なくともひとつ以上存在し、人々は2つ以上の宗教に同時に属することは無理なのだから、ここで我々は「すべての魂は地獄にいく」と推論することが出来よう。したがって、出生率と死亡率の考察から、地獄における魂の総数は指数関数的増大を示していると考えることが出来る。
ここで我々は地獄の容積の変化についての検討に移ろう。ボイルの法則から、地獄の温度と圧力を一定にするためには、地獄の容積は、魂の数が増えるたびに増大する必要がある。ここでは2つの可能性があり得る。
1.地獄の容積増大率が魂増加率より少ない場合;地獄の温度と圧力は高まる一方となり、最終的には地獄は破裂するだろう。
2.地獄の容積増大率が高い場合;地獄の温度と圧力は落ち続け、ついには地獄は凍り付くことになる。
ではどちらなのか?ここで我々は、筆者個人が新入生時代にテレサ・バニヤン嬢から与えられた仮定命題を前提としたい。『あーんたなんかと寝るような事になったらね、地獄も凍り付くってもんだわ』この仮定の上に、その後同嬢と性的交渉を持つに至っていないという事実を重ねて考察するならば、2.が真とはならないことが導かれる。故に地獄は熱を発し続け、凍り付くことはない。」
この学生は116人の学生の中で唯一、Aの評価をもらったそうだ。彼以外の最高点はB−であったという。
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掲示板ではこのネタがずいぶん昔から流通していることが指摘されていた。一応建前としてキリスト教世界観が前提とされている米国社会の価値観を、軽くからかう内容となってはいるものの、受ける感じはなんだかずいぶんオールドファッションだ。子供の頃、TVの前で釘付けとなって見ていた米国ホームドラマが代表するような、「古き良きアメリカ」でしか通用しないような気がする。これを紹介していた人は、「生涯で読んだもっともおかしなストーリーの一つ」などと評していたが、もはやこれは「郷愁」でしかないと思われる。
日本の場合など、天国も地獄もないものだから、そこの魂密度は圧倒的に低いに違いなく、おそらく両方とも完全に凍り付くほどの低温度であろう。テレサ嬢の仮定的命題が一般化されて、性的倫理が乱れに乱れるのもこれは当然の成り行きだろう。(2000/02/16)
人の死というものを幾分でも茶化して扱うと異様に怒り出す真面目な人がいるもので、いわゆる「ダーウィン大賞」系のジョークが一般化していかないのはその悪趣味のゆえばかりだけとはいえないようだ。そういうところを考慮した結果なのか、その「死」がかなりの時間を経て、生々しさを失い、挿話としての面白さだけを残したような例を集めている記事を見つけた。ちょっと前の記事ではあるが、紹介したい。
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アッチラ大王:西暦450年ごろモンゴルから今のロシア全域あたりまで一代にして征服し、破壊と略奪の限りを尽くした歴史的悪役として知られる。
その死因:結婚式の夜、鼻血が止まらなかったことによる。453年、大王はイルディコという名の若い女性と結婚した。戦場での勇猛果敢さに相反して、彼は大きな宴会などでも飲み食いには慎ましい態度をとっていたそうだ。しかし結婚式の夜、彼はいつになく貪り食い、かつ飲んだ。その夜、何度も鼻血が出たが、飲むのを止めなかった。翌朝、彼は自らの鼻血で窒息死してるのを発見された。
チコ・ブラーエ:16世紀オランダの重要な天文科学者である。彼の観測結果が後にニュートンをしてその重力理論を発見せしめたと言える。
その死因:トイレにちゃんと行かなかったため。16世紀のヨーロッパでは、宴席を途中退席することははなはだ無礼な態度とされていた。ブラーエは大酒呑みとしても知られていたが、ある夜、たまたま尿意を催していて、前もってトイレに行きそびれたまま宴席に出てしまった。杯を重ねつつ、事態が悪化していくのに気づいていた彼だったが、先に失礼とは言い出せず、彼の膀胱はついに破裂してしまった。彼は11日間苦しんだ揚げ句、死亡した。
ホレース・ウェルズ:1840年代に初めてガス麻酔を導入した、アメリカの歯科医である。
その死因:麻酔を用いた自殺。さまざまな物質を用いて麻酔の実験をしているうちに、ウェルズはクロロフォルム依存症になってしまったらしい。1848年、彼は二人の女性に硫酸をかけた、と言う容疑で逮捕されている。留置場からの手紙で、彼はクロロフォルム中毒でハイになってやったことだったと告白している。4日後、彼は独房で死亡しているのを発見される。彼はクロロフォルムで自分に麻酔をかけ、剃刀で腿を切り裂いていた。
フランシス・ベーコン:16世紀の偉大な思想家の一人として知られる。政治家であり、哲学者であり、作家、科学者でもあった。シェークスピアの戯曲のいくつかは彼が書いたとさえ噂されている。
その死因:鶏肉に雪を詰め込んでいて凍死。1625年の 冬のある朝、ベーコンは雪嵐を眺めていてある啓示に取り付かれた。それは「雪を使って鶏肉の保存が出来るのではないか」という考えだった。塩漬け肉のように、雪漬け肉が作れるのではと思いついたのだ。彼は近所の村で鶏を買うとそれを殺してさばき、雪が降るなか、外に出て鶏の中に雪を詰めこんで凍らせようとした。鶏は凍らなかったが、ベーコンは凍死した。
アイスキュロス:紀元前5世紀のギリシャ劇作家。歴史家は彼をギリシャ悲劇の父と呼ぶ。
その死因:鷲が亀を彼の頭にぶつけたため。鷲は亀を捕まえると、岩の上に落として甲羅を割って食べようとしていたのだが、アイスキュロスのハゲ頭を岩と間違えたと伝えられる。
ルリィー:17世紀フランスの宮廷音楽家。ルイ14世に重用された。
その死因:楽団のリハーサル中、指揮杖(当時、指揮者は大きな杖を振り下ろして拍子をとった)で自分の足を突いたことが原因。彼は感染症で死亡した。
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たまにはこういうほのぼの(?)系もよろしいかと。(2000/02/19)
(戻る)
1963年、6月26日。当時、米ソ対立は深刻の一途をたどっており、ソ連側は西ベルリン封鎖という手段に訴えていた。西ベルリンを「自由の砦」とせんと、大規模空輸作戦を展開した当時のアメリカ大統領、J・F・ケネディは一路ベルリンに飛び、市民の前で演説した。彼はその有名な演説をこう締めくくった。" Ich bin ein Berliner"
自由を守る決意を共有する限り、私はどこにいようとベルリン市民なのだ、というような内容をドイツ語で締めて向こう受けをねらったのだが、このドイツ語のフレーズがちょっと前から一部で論議をよんでいるらしい。曰く「ドイツ語でベルリン市民を表すのは"Berliner"であって、"ein Berliner"ではない。後者なら『"Berliner"と言う物』を表すことになる。ドイツの有名なお菓子に、"Berliner"というゼリー・ドーナッツがある。したがって、ケネディは「私はゼリー・ドーナッツだ」と言っていることになる。ケネディは"Ich bin Berliner"と言うべきだったのだ。」というもの。
この非難はニューヨークタイムズやニュースウィークという、クオリティペーパー上でもやられたらしい。ウェブ上でも多くのケチつけ記事を見ることが出来る。これに対し、「そう言う非難こそ、一種の伝説なのだ」と勇気ある反駁をしているのが、ここでよくパクリネタの出所となるurbanlegend.about.comの編者である。彼の所に寄せられた読者からの手紙をもとにした記事は、この「ゼリー・ドーナッツ伝説」を完膚無きまでにうち破っている。かいつまむとこういう内容だ。
「確かに"Berliner"というお菓子があって、"Ich bin ein Berliner"を"I am a jelly donut."と直訳できない事はない。でもそれはドイツ語に対する一知半解の非難だ。もしJFKが"Ich bin Berliner"と言っていたら、その下手くそな発音の故もあって、とても馬鹿げた印象を残したろう。言うならば『私はベルリンっ子です』という意味になるのだから。ケネディのドイツ語は極めてよく考えられている。それは『私はベルリンの人々と共にある』という意味だ*」と。例えば松下電器がもしつぶれかけ、アメリカ企業に買収されて派遣されてきた向こうの責任者が、就任演説を「ワテはナニワのアキンドでんねん」と受けをねらって締めくくったら非難ごうごうだろう。JFKの演説はそう言う点まで考えられていたのだと。
また言語学者の意見も引用されていて、ドイツ語の不定冠詞には暗喩的な意味づけがあるとも主張されている。"Er ist Politiker"なら「彼は政治家だ」というそのものズバリの事実を指摘するだけだが、"Er ist ein Politiker"になると、「彼はまるで政治家のようだ」という意味になるのだという。実際、あのケネディの演説はドイツ人スタッフによって監修されており、それが誰であるかも判明しているとのことだ。
ケネディ演説を「ゼリー・ドーナッツ」と決めつけた英語圏の伝説は、日本人がなぜあれだけ冠詞の用法でまごつくのか、という問題の謎を一部明らかにしているように思う。英語ネイティブにとっては、不定冠詞は名詞を具体的個物というカテゴリーに絞り込む不可欠の物であり、当然ドイツ語だって同じだと考えているから、"ein Berliner"="a"+"Berliner"であり、「ベルリン市民」は具体的個物ではない集合名詞なので、そこには「ベルリナーという名のゼリー・ドーナッツ」しか来ない、よって「私はゼリー・ドーナッツだ」と言う意味だと自動的に連想されてしまうらしい。ところが実際はドイツ語の不定冠詞にはまた別の意味合いがある、ということは英語圏人のエスノセントリズムには理解できないのだろう。
ましてや不定冠詞だの定冠詞だのとは無縁な日本人にとって、これを使いこなすというのは言語にわざわざ不必要な領域を追加することに他ならず#、必要性を理解できない物を正しく使えるはずもない。そこを英語ネイティブの言語感覚を借りた連中がそれこそ一知半解の非難をする物だからますます混乱してしまうのだ。
少なくとも英語の冠詞はかなり特殊な進化をとげた物であり、それが当然と考えている連中は、ドイツ語という類縁語にまでその原則をおよばせて妙な誤解をすることがある、というのがこの「JFKゼリー・ドーナッツ伝説」の重要な教訓であろう。今後英語が地球語になっていくのは避けられそうもないが、その地球語には当然より普遍的な言語感覚が導入された物にならねばならず、日本人は率先してその任に当たるべきであろう。(2000/02/21)
#筆者は"a"をあえて日本語に訳すとすれば、長島茂雄氏の「いわゆるひとつの」がもっとも適当だと思っていたが、これだとどうもドイツ語の"ein"の方に近く、数が数えられる具体的個物をカテゴライズする言葉としては似つかわしくない点もありそうだ。
*JFKの演説を現場で聞いていた人の証言がウエブにある。あのくだりは正直言って多少は「ゼリー・ドーナッツ」への連想を誘う物ではあったようだ。でも、JFKの情熱はその場の人々を深く感動させ、そんな連想など消し飛ぶ連帯感でその場は包まれたのだという。言葉は些細な用法の疑問点など越えて人に伝わる物なのだ。
30年代のアメリカ大不況は想像を超えるものであったようで、経済不況に加えて天候不順が続き、大凶作のために農民たちも自分たちの飢えをしのぐのが精一杯であったらしい。そんな時代に、その農民たちをカモにしたある詐欺が横行したという。悪い奴はいつでもどこにでもいると言うべきか、そんな時代でも人はユーモアを忘れずに危機に対処した、と言うべきなのかなんとも決めつけがたい。これはカナダの話として語り継がれているという。
この時代、色々な新聞に「ジャガイモを育てよう」という宣伝記事がのったという。不作のおり、世話も余りいらずに育ち、冬を越す助けになるだろう。かってアイルランドの農民はそれで命をつないだばかりか、それからウイスキーまで作ったではないか。しかし、ジャガイモに付く虫には気をつけよう。それはあなた方を滅ぼしかねない。それらの記事はそんな風に、安全で確実、使用が容易なジャガイモの虫取り器を宣伝していた。1ドルちょっとの値段で、子供だって簡単につかえるとのことだった。
収穫物を守るためなら1ドルぐらいの金は農民なら惜しまない、何千もの「虫取り器」の注文がくると、その広告はさっと消えてしまった。農民たちの所に届いたその「虫取り器」を見てみると、それは五セント程度の値打ちしかないと思われる、1cmぐらいの厚さでタバコの箱程度の大きさをした二枚の板だった。
取り扱い説明書にはこう書かれていた。「表に出てジャガイモ畑に行き、虫をつまんで一枚の板の上におき、もう一枚の板ではさんでつぶしなさい。虫はそれでイチコロです」余りにも正しいその使い方に、人は怒る気にもならなかったらしい。
その虫取り器はやたらに売れ、それはジョークそのものになった。郵便局ではそれと思われる大きさの小包みがあると、「おい、また安全確実ジャガイモ虫取り器だぜ」と笑いあった。実際、その当時の救いのない世相では、それは1ドルの価値がある笑いをもたらしてくれたのだ。
さて、時は流れこれと同類の話がアメリカでもあった。ある男が雑誌を読んでいると、こんな広告がのっていた。「本物のメキシコ製コートハンガー大安売り。たったの五ドル」男が五ドルをおくると、すぐに包みが届いた。中には「古い錆びたクギ」が入っていた。
以上ここまでがここの記事の抜粋。
さて、筆者も似たような経験がある。ある英語圏の国で土産物店に入ったとき、アダルト系の商品の棚の片隅においてある品物が目に入った。大判のチョコレートぐらいの大きさの箱だが、なんとなくプロ用の医療材料を意識したようなデザインのパッケージになっている。それには"Pussy stretcher - The best instrument to stretch your Pussy!"と記されていた。「なに?プッシーを広げる道具だと?」その箱はもとはセロファンで包まれていたらしいが、ほとんど破れていて、蓋をあけて中がのぞき見できそうな状態だったため、筆者はそっとまわりをみて誰もいないのを確かめ、こっそり中身を盗み見してみた。
なかには割り箸ぐらいの木の棒2本を、カンバス地の布でつないだものが入っていた。そう、子猫用ならちょうどいいぐらいの大きさのミニチュア担架だった。(2000/02/25)
まずは軽いデマメールの紹介から。これはここの掲示板から。
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アラバマのグレッチェン・ラズロウは、妊娠したという理由で地元の薬剤師に対し、五〇万ドルの損害賠償訴訟を起こした。グレッチェンはその薬局で98%大丈夫だという避妊ゼリーを購入していた。彼女は毎朝そのゼリーをトーストにつけて食べていたが、3カ月後に妊娠してしまった。訴えは、薬剤師がそのゼリーは食べるのではなく、性行為の前に局所に挿入するものだとちゃんと説明しなかった、という義務違反だというもの。
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これは昔からある「間抜けな金髪女」ジョークの蒸し返しのようだ。訴訟話になって復活というところか。ゼリー系の避妊薬(日本でも『マイ・ルーラ』というフィルム状のものがある)は要は界面活性剤(早い話が洗剤)だから、トーストに塗っても食えたモノではないと思うが、考えてみればある種のマーガリンとかスプレッドには賦形剤を混ぜ易くするためにこの系統が結構入っているらしいから、そう違和感はなかったかもしれない。
次はもう少し深刻なもの。昨年11月ごろのもの。これも先ほどと同じ所だが少し古い。
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1年ほど前、プロゲストレックスという新薬が発売された。これは避妊と言うより不妊化に使われる薬である。この薬が今、レイプ犯たちによって証拠隠滅に使われている。この薬は獣医だけが扱える事になっているが、一部の大学生にこれが出回り、いわゆる「デート・レイプ」用の薬としてロヒプノールと一緒に使われていると聞く。ロヒプノールはパーティの席などで目当ての女性の飲み物に入れると簡単に意識もうろう状態になり、しかも翌日その間の記憶が無くなってしまう。これにプロゲストレックスを加えると、被害者は絶対に妊娠しないので、後になって遺伝子テストなどで証拠にされる心配がない、というわけだ。しかし、この薬の効果は一時的なものではない。この薬は本来馬を不妊化する目的で開発された。これを飲まされた女性は生涯にわたって子供がもてなくなる。レイプ犯たちはこの薬を、獣医学部にいる知り合いなどから調達しているようだ。これがキャンパスに蔓延するのは容易だと思われる。こうした薬の使用法を教えるサイトもあちこちにある。どうかこのメールを知り合いに転送して危険を知らせてほしい。
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ロヒプノールが"Rape Drug"として妙に有名になってしまい、衝撃が薄れた分を補おうとしてか、こういう薬をでっち上げたらしい。いかにも、という女性ホルモン系の名前がつけられていて、医学生物系の人間が考えたらしい事がうかがえる。もちろん一回飲んだら一生不妊化するような薬はないし、これはロヒプノールの悪用に便乗した完全なデマだ。
最後の話は、アメリカでは経口避妊薬がそこらの薬局で処方箋なしに買えながら、いざ堕胎となると殆ど集団ヒステリーのような反応が起きるという、まか不思議な事情をふまえないとよく分からないかも。これはここから。
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家族計画連盟(避妊や計画出産を啓蒙する世界的規模の団体。実在する)はスーパーマーケットチェーン・ウォルマートのボイコット運動を計画している。理由は避妊薬「プレベン」を売らないからだという。プレベンは「モーニング・アフター」避妊薬として知られているが、それは正確には避妊薬ではない。それは受精した卵子を流産させる薬で、ウォルマートはそれを理由に販売を拒否しているのだ。
家族計画連盟はすべての女性と、女性の選択の権利(殺す権利)を支持する男性にウォルマートのボイコットを呼びかけている。ウォルマートを見殺しにしてはならない。彼らは本当の権利の擁護のために立ち上がったのだ。このメールを生きる権利を支持する人々に転送してほしい。我々は道徳の側に立つ企業を守らなければならない。
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このメールにはつづいてマザーテレサの言葉などが見当はずれに引用され、自分たちの道徳的優位性を主張している。欧米系の反堕胎運動とか動物愛護運動という胡散臭い「正義」の内実には、優先順位と言うことについての根本的欠落と言う特徴があり、「胎児の命を奪うような事は許されないから、それを認める連中は皆殺しにして良い」とか「牛は食べてもいいが、鯨を食べるのは許せない」とかいうような歪んだ価値観を押しつけがましく主張する姿は、自分らの文化が差し当たってメインとなった事から来る思い上がりを示すと同時に、その文化そのものの欺瞞性をこの上なく雄弁に語っていると思われる。
それはともかく、性行為の翌朝に服用しても一定程度の避妊効果があるという「プレベン」は「受精卵の子宮壁への着床を阻害する」という作用があり、一般的な避妊薬とは少し違う。しかし、少なくともここで言われるが如く「流産薬」ではない。受精卵は必ず着床するというものではなく、着床率を低下させる作用を流産誘発だと主張するのはかなり無理のある主張だ。この問題には、どこが生命の始まりかという哲学論争に、鶏が先か卵が先かという循環論がかぶさってきて、とても一律に皆を納得させる基準が存在するとは思いがたい。少なくとも反堕胎を主張する、あらゆる生命の権利を守ると自称する連中が、実際に生まれてきたすべての生命についてその権利を守ってくれているとは思えず、自分の道徳観を人に押しつけていることだけは確かだ。
それと、このメールではウォルマートがまるで反堕胎運動を支持しているか如きに書かれているが、ウォルマート側ではプレベンを売らない理由は純粋な商業的理由であるとしている。かなり高額の薬であり、そうしょっちゅう使用されるものではなく、デッドストックとなる可能性があるからだろう。普段はおかないが、もし必要な場合は薬局の義務として、別ルートで入手できよう手助けする、とちゃんと言っているらしい。
日本ではウェルマートといえば、安っぽいものばかり並べた単なる弱小チェーンにすぎないが#、むこうではかなりの大手のようだ。非難にも関わらず銃器や弾薬は販売を続け、ある種のポピュラーソングのCDを内容を問題にして売らなかったりとか、その経営方針はかなり古色蒼然たるアメリカ保守主義に貫かれているらしい。。それと肝心なことだが、家族計画連盟がウォルマートをボイコット運動を計画した事実はないそうだ。レイプの被害者など、この薬がどうしても必要な状況があるだろうになぜこれを扱わないのか、というような質問はしたようだが。
紹介した避妊薬に関する転送メールに共通することとして、避妊薬=性的ふしだらさを助ける薬、という清教徒的な道徳観念がどことなく付いて回っている印象が強いといえる。適切な産児制限(こういうとえらい古い感じとなる)の手段を選択できる、と言うことでどれだけの多くの人が救われているかと考えると、せこい道徳によるお説教など無意味でしかない。この手の腐れ道徳主義者の発生原因とその駆除について、真剣に考えて見る必要があると思われる。(2000/03/06)
#こんな事書いたが、日本のウェルマートチェーンとここで話題になっているアメリカのWal-Martは全然別の組織でした。失礼なこと言ってごめんなさい。でも紛らわしいネーミングですよね。